不定期連載「SOSのある生活③」

朝のホームルームを終え、俺はジトジトした不快な空気、いやここまで来ると最早瘴気と表現した方が正しいのだろうか、
兎に角、視覚で言うと『黒』、触覚で言うと『粘』だろうイメージを背後から感じ取っていた。

「何よ……」
あーああーあ、我らがプリンセスは大層不服な面持ちなようで。
まぁ、それを振り向かずにして理解する俺も、もうこいつの毒に侵されきっているわけなんだが。
「……朝から一体どうしたんだ。悪い夢でも見たのか」
90度体を動かして後ろを見る。
「違うわよ。規則正しい生活をしている私に、悪夢なんて見てる余裕無いわ」
顎を机の上に乗せて脱力するハルヒ。
言っている事に因果関係が掴めないのはいつもの事だ。
「全く、あんな理不尽な時期に転校したんだから、ちょっと期待しちゃったじゃない」
ハルヒが言ってるのは多分あいつの事だろう。

「諸事情で日本に戻ってきました。皆さん、お久しぶりです」
ホームルーム、カナダから緊急帰国した(という設定になっている)朝倉は、
それこそ皆を幸せに出来そうなスマイルで元気良く挨拶した。
元々委員長として働いていた朝倉だ。クラス全員が彼女の復帰を心から喜んでいた。
当然、一歩間違えればあいつの代わりにこのクラスからいなくなっていただろう俺と、この後ろでへばってる奴は除くが。

ハルヒに言わせれば、
入学してすぐに海外へ転校した朝倉には絶対何か裏があると踏んでいたようで、
一度は諦めていたが、いずれ真実を明かしてやろうと思っていたらしい。
それなのに結果朝倉がケロリと戻ってきたものだから、狙っていた遺跡を先に見つけられてしまったようなショックを受けたことだろう。
「ねぇキョン」
右頬を机に押し付け空を見つつ喋るのは年頃の女の子として正直どうなのか。
「私はね、てっきり朝倉さんは宇宙人にさらわれたと思っていたのよ」
『宇宙人』という単語にビクッとする。
「でそれを自然に纏め上げようとした宇宙人によって全人類へ洗脳が行なわれたのよ。
だってそうじゃない? あんなタイミングで転校よ? みんなだって絶対おかしいって思うはずじゃない」
なんでこいつはこうも的外れな中にピンポイントど真ん中ストライクを決めてくるんだ。

朝倉の方を見ると、机の周りにはクラスの女子達が我先と押し寄せていた。
「ねぇねぇ、カナダの料理って美味しい?」
「うーん、正直豪快だったけど私にはちょっと無理だったかな」
作り話をあそこまで真に迫って言えるのも、
あいつがどんだけ分厚い猫の毛皮を羽織っているのか知ってる自分にしてみればおそるるに足らない。

「あーあ、どうしてこう事実っていうのは単調でつまんないの!?」
「おいハルヒ。前にも言ったが、不思議な事がそんな石投げて当たる様に存在する筈が無いだろ。
様々な途方も無い現象の中に一つだけあるから不思議って言うし、それこそ追求するに相応しい存在だろ?」
「五月蝿い。それにくさい」
……やれやれ。

「おいおいキョン、これってあれか、俺と朝倉の間を結ぶ赤い糸が呼んだ奇跡か。いや、これは運命だな。離れ離れになっても互いに惹かれ合う……うーむ絵になる」
「とりあえずハルヒ、こいつの脳とか手始めに弄ってみたらいいんじゃないか」
「嫌よ」

コールタールのような圧迫感の気配を背後に浴びつつ午前の授業をどうにか凌ぎ切った俺は、
昼休み、弁当も半ば、事の真相を誰よりも知っていそうな奴に会うため、ある場所へ向かった。
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by lion-cage | 2007-03-31 15:21 | SS-ハルヒ


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