えーと、この首のナイフで、というか顔見えてるし確信は出来てるんだけど、
脳が目の前の存在を認知しまいと必死で抵抗してるんだが……。 「『あさ』までは良かったんだけどなぁ。『h』の子音はいただけなかったな」 満面の笑みで、しかし凶器を握り締めた右手は微動だにさせず、女は台詞を繋ぐ。 「もう! ちょっと前まで同じクラスメートだったのに酷いよキョン君」 頬をぷくっと膨らませる表情は、大人びた容姿を『可愛い』にダウングレードさせるのには十分で、より一層、その心の奥に潜む殺意を分かり易く捕らえられた。 「朝倉……なんでここに」 実際に当てられている訳でもないが、最早首と胴が繋がっていないかのような息苦しさを感じつつ、 肺に残っていた少ない二酸化炭素で疑問を紡ぐ。 「キョン君に会いたかったからかな」 ニッコリ笑いつつ答える目の前の女。 転校した幼馴染ならまだしも、一度殺されかけた相手にそんな風に言われたところでタチの悪いジャパニーズホラー映画のワンシーンだ。 実際ちょっと今朝倉がクシャミでもしてみろ。スクールゾーンが鮮血に染まるぞ。 「……嬉しそうじゃないね」 これを嬉しい状況と思えるほど、俺は特殊な性癖は持ち合わせてはいない。 「私の事嫌い?」 飛躍した発想につっこめばいいのか、言動の不一致につっこめばいいのか分からん。 「と、兎に角この危なっかしいものを仕舞ってくれ」 全身硬直しつつ口を動かしすぎない程度にアピール。 喉が必要以上に振動したら前述の通りだ。この連載もあっけなく終焉。作者的には万々歳なんだろうが。 「あら、いけないいけない」 朝倉は自分の右手を改めて見て頬を赤くする。 まるではしたなく食事していたのを親に注意された子どもの様だ。 手を開いてナイフを地面に落とすと、先ほどまで渋く光っていたそれはさーっと消えていく。 俺は足腰に力が入らずその場に崩れる。 「つい癖で突きつけちゃってた」 ……癖なんかで殺されかけたら、いくら階段で亀踏み続けても需要と供給がマッチしないぜ。 朝倉はおでこを手で抑えるポーズをして反省している。 俺の専売特許を取られてしまった。著作権の侵害だ。使用料寄越せ。 「だって、久しぶりでつい嬉しくなって」 「喜びを殺人衝動にするな」 「それはそうと、そろそろ学校始まっちゃうよ?」 そういえば目の前の殺人未遂女、やけに自然だなと思ったら、ウチの学校のセーラー服着ていやがる。 まぁこいつが普段着を着ている姿は生前(?)見た事無かったけどな。 「それはそうよ。だってまたこっちに転校してきたんだから。カナダは楽しかったよキョン君」 その点は長門の情報操作にあくまで忠実だった。 「とりあえず立ち話はこれくらい、聞きたい事があったら休み時間でも放課後でも私を捕まえてね」 そう言いながら、まだ地面に座り込んでいる俺に手を差し伸べる朝倉。 柔らかい笑顔は、夏手前の陽気には一際眩しい。 握り返した手に、これから何かが起きるだろうという期待、そしてそれ以上の不安を俺は感じていた。 (続く)
by lion-cage
| 2007-03-23 19:23
| SS-ハルヒ
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